❶ 制作費は1話あたり2000万円
「サンダーバード」は最初はCM込みの30分1話(25分尺)の作品を想定して制作が進められていた。放送局であるATVのプロデューサーであるルー・グレイドに完成した第1話を見せたところ、その完成度の高さに驚き、「これはテレビ番組じゃない、映画だ! 映画なら1時間の尺にしないと」と判断。25分尺ですでに9話分の撮影が終わっていたが、これに追加撮影を加えて50分尺のものに変更し、以降のエピソードも50分尺を想定したシナリオが作成される。そのため、前半のエピソードはやや冗長な印象に仕上がってしまっている。50分尺になったことで制作費も増額され、1話あたり当時の価格で4万ポンド(約2000万円)となり、世界的に見ても最も高額な制作費を投じた番組となった。
❷ こだわりのマリオネット造形
マリオネットの頭部は、アイデアスケッチをもとに油粘土で造形し、ジェリー・アンダーソンの妻で共同プロデューサーを務めたシルヴィア・アンダーソンがデザインのチェックやカメラテストなどを行って確認。OKが出たものを型取りし、グラスファイバーに置き換えたものが撮影に使用された。目は操演師がワイヤーで左右に動かしていたが、唇は役者が吹き込んだ台詞に合わせて電磁石をつかって開閉する「リップシンクロシステム」を採用している。また、メインキャラクターはノーマルフェイスに加え、「笑顔」、「考え込む顔」そして目の瞬きが可能な4つの表情が用意され、状況に応じて眉の角度を変えるというような使い分けることでさまざまなシーンに対応していった。
❸ 絶妙な操演によって生まれる
マリオネットの演技
マリオネットを操作するために、スタジオには舞台セットの上の高さ2.5mの位置にブリッジと呼ばれる足場が作られ、操演士たちが動かした。マリオネットは頭部には、目を動かすものと頭の向きを動かすもの、人形自体を支えるものなど5本の操り糸を配置、さらに両手の上下を行う2本の糸があり、ひとりで7本の糸を操ることで人形に演技をさせていた。ちなみに、操演士はマリオネットを操るだけでなく、マリオネット自体の造形も担当。マリオネットの演技をさせながら、破損した場合などはその場でメンテナンスも行っていた。現場では、5人の操演士がマリオネットを操り、映像に命を吹き込んでいた。
❹ 謎の多い救助メカのミニチュア
劇中で印象的な活躍をしていた救助メカだが、撮影に使用されたサンダーバード1号〜5号まで、当時の撮影に使用された全てのモデルは破損や盗難、紛失などによって失われてしまっている。そのため、各ミニチュアがどのように制作されたのかは、関係者の証言に頼ることしかできない。サンダーバード1号〜4号に関しては、シチュエーションに合わせてスケールの異なるものが複数用意されていたが、5号のみ1体だけの制作だった。ゲストメカや破壊されるミニチュアには、ディテール用にプラモデルの部品などを貼り付ける「キットバッシング」と呼ばれる手法が取り入れられている。
❺ メカに迫力を与える特殊撮影
「サンダーバード」における迫力のメカ撮影シーンのタイミングは、すべて人力によって行われている。この操演を担当したのは、若き日のブライアン・ジョンソン。後に、『エイリアン』や『スター・ウォーズ エピソード5:帝国の逆襲』などで特殊効果を担当し、アカデミー賞を受賞した人物。巨大なミニチュアの発射シーンや着陸シーンでは、大量の火薬が使用され、推進ノズルから噴射の際には、煙や飛び散る破片などに耐えながら、大きく重量があるサンダーバードのメカたちを腕力で支えた。ちなみに、撮影当時に使用されていた火薬類は、現在の安全基準には合わないため使用できず、現在の技術で完全再現するのは難しい。
❻ 新たに取り入れられた撮影技術
「サンダーバード」の迫力ある映像を支えたのは、ハイスピード撮影。通常のカメラでは1秒間に24コマしか撮影することができないが、ハイスピード撮影は1秒間を24コマ以上で撮影することができる。1秒間のコマ数を多く撮影し、それを通常のスピードで見ると素早く動いているように見える。これを駆使することで、ミニチュアの飛行や走行シーン、さらにはセット波までもリアルに見せることができた。また、長距離を移動しているように見せる飛行シーンや走行シーンでは、ミニチュアを動かすのではなく、背景の空や道路自体をベルト状に繋げて背景を動かす「背景ロール」を取り入れている。水中シーンでは薄型に作られた大型の水槽を配置し、水槽を挟んで撮影。浮力のあるミニチュアを水中に沈めることなく、水中をサンダーバード4号が自在に動き回り、救助するシーンを撮影することができた。
❼ 映画撮影の常識となる技術を
先駆けて導入
「サンダーバード」では、当時導入されたばかりのビデオカメラを使用し、カメラマン以外もファインダーで撮影している映像をモニターで見ることができる、現在の撮影現場では常識となっている「ビデオ・アシスト」という方式を導入。当時はまだモニターの性能などが低く、問題点もあったものの、2メートル以上も離れた足場の上からマリオネットを操る操演士もこのビデオ・アシストによって、ファインダーではマリオネットがどのように動くのかを確認することができ、より自然な演技をさせることができたのだ。
※一部事実が確認できない内容が含まれていたため、修正いたしました