INTERVIEW
日本語劇場版構成担当 
樋口真嗣 インタビュー
―― 「サンダーバード」に触れたのはいつ頃で、どのような感想を持たれていましたか?
樋口 物心ついた頃には既に存在してたというか、具体的にいつが初めてかわからないですが、再放送で観ていたと思います。当時から、子供心に娯楽として観たいものが全部入っていて、大事故や大災害が発生して、人は助かるけど原因になった建物や乗物はみんな壊れるんですよね。それが子供ながらに楽しかったというか。自分たちが子供の頃は、特撮はもちろん、他の「木曜スペシャル•引田天功大脱出」や「西部警察」のように、大爆発がクライマックスを飾るものが多かった。爆発すると、それまで難しいことを考えていた脳が機能を停止するというか、なんか「やった!」という気持ちになって。花火の大玉を観るような気持ちですかね。その後、『スター・ウォーズ』やスピルバーグの映画などは、もうちょっと成長してから観ているので、批評性を持って判断しながら観ていたんですが、「サンダーバード」の場合は、脳が発達する前に見せられているので、原初体験として刷り込まれているせいかもしれないですね。

―― 「サンダーバード」は、日本の特撮作品に多くの影響を与えているように思いますが、その部分に対してファンの視点からどのように観られていますか?
樋口 そもそも、日本の「ウルトラセブン」以降の特撮は、「サンダーバード」の影響を大きく受けているのは間違いないと思います。1号、2号というネーミングといい、影響どころではない気もします。当時、円谷英二さんが「サンダーバード」をもの凄く意識されていて、フィルムを取り寄せたり、イギリスの撮影現場を見学に行ったりしている。その結果、「ウルトラセブン」では急遽、メカ描写に多くの予算をつぎ込んだらしいんですよね。「ウルトラマン」のジェットビートルは、東宝からの借り物の色を塗り直して使っていただけなのが、「ウルトラセブン」では全部新規で作っている。「ウルトラマン」の続編ではなく、まるで別物を作ろうとしていたんじゃないかと思うくらい、「ウルトラセブン」は「サンダーバード」的なんですよね。そういう意味では、ウルトラマンが出てくるようなドラマに、「サンダーバード」の要素をくわえようとしていたとしか思えないんですし、ほぼ同時期に円谷プロで企画が進んでいた「マイティジャック」などを含めて、「サンダーバード」は自分たちにもできると思っていたのではないかと。
一方で、僕らの子供の頃に「サンダーバード」のプラモデルがものすごく売れていて。ビジネスの方向性として、「サンダーバード」のやり方を取り入れたかったというのもあると思います。

―― 「サンダーバード」は、ドラマの作劇にも魅力がありますが、どのような部分が印象に残っていますか?
樋口 救助が成功するかどうかのシーンを盛り上げたのは、音楽だと思うんです。全てのエピソードでスコアリングしているバリー・グレイの音楽は、本当に格好いいし華やか。そして、スリリング。何かのインタビューで読んだんですが、やはり人形だから感情が伝わり難いということで、音楽で助けなければいけないという意識を強くもって音楽を作ったと書いてありました。その過剰さが我々にとっては必要なものだったんですよね。ファンの方は、「サンダーバード」と言えば、人形やミニチュアを重視しますが、音楽も「サンダーバード」を支えている重要な部分じゃないかという気がしますね。ごっこ遊びじゃないですが、プラモデルを手に持った時に、頭の中で音楽が鳴って、それを口ずさみますからね。

―― たしかに、音楽と紐付いてシーンを再現して遊ぶようなことはしていましたね。
樋口 「ウルトラマン」だと怪獣やヒーローを誰かが演じて、そこが中心になってしまう。でも、「サンダーバード」は、裏山の造成地の小さい崖を切り崩して、石を落としたりして「救助します!」みたいなことをやっていましたね。小さい川をせき止めて、洪水を再現したりとか。「サンダーバード」の本質的なところは怪獣が出てくるわけではないけど、怪獣が出てきた時に一番観たいところ、例えば建物が壊れるとか、飛行機が墜落するとか、そういう部分を怪獣抜きで全部作劇だけでやってしまった。エッセンスとしては、怪獣ものを観ている時と同じ楽しみ方もできたんですよね。

―― 「サンダーバード」も55周年になりますが、半世紀以上が経過したことに対しての感慨みたいなものはありますか?
樋口 僕は「サンダーバード」と同い年なので。やはり、「そんなに経っちゃったのか」というのが切なくもあり。でも、今回上映される新作を通じて、昔の作品が持つ良さみたいなものに、みんな気付いて欲しいですね。特に今の若い子たちは「サンダーバード」という作品を観ていないと思うんですよね。そういう人たちに「昔、こういう凄いもののがあったんだよ」って見て貰いたいなと思うし。「こういう作り方もいいでしょ?」というのが広まってくれるといなと思いますね。

―― 劇場版のベースとなった、「サンダーバード」50周年で作られた、新作3本を観た感想はいかがでしたか?
樋口 CGに代表されるデジタル技術に頼らず、全盛期の特撮技術の再現ということであれば、僕らも本当に同じようなことを短編映画『巨神兵東京に現わる』(2012)でもアプローチしていたんですが、それよりももっと極端なことをやっている。「昔、もしかしらたこんな形で作られていたのかもしれない」というシミュレーションみたいなことをやっているので、筋金入りだなと感じますね。そこに引退しているオリジナルスタッフを引っ張り出してきたり。本当にいい話ずくめですよ。そして、このやり方は正しい選択です。最初に知り合いに飲み屋で見せられた時に「俺が見てないエピソードがあるんだ」って思ったら、当時の技術を再現して作られたんだと。これは本当に凄いことだと思いますね。

―― 今回、劇場版としてまとめるにあたっては、どのような関わり方をされているのでしょうか?
樋口 今回は、余計なことをせずに、(スティーブン・)ラリビエーさんが作られたそのまま見せることを前提に、「構成」という形で関わっています。そこに、劇場に来て観てもらったそれなりのお土産として、通しで見ることで味わえるプラスアルファの高揚感を感てもらえるよう作業しました。

―― キャスティングに関してはどのような感想を持たれましたか?
樋口 本当にいいキャスティングだと思います。ペネロープを演じる満島ひかりさんは、黒柳徹子さんの若かりし頃を描いたドラマ「トットてれび」を見た時に、その姿を見事に再現していた。昭和の女優さん特有の喋り方なんかを会得している方だなと思いました。今回もそこを上手く出していただいていて、満島さんが声を入れることで改めて「ペネロープは可愛い女性だったんだ」って気付ける、魅力的なペネロープとして描けていると思います。他の声優陣も、豪華ですよね。オリジナル原理主義的な形で「サンダーバード」の吹き替えを再現するのは現在は無理なので、それに対してどう対応するかという部分では、とても正しい判断をしていると思いますね。そして、まったく新しいキャストでここまで吹替版としての「サンダーバード」の空気感を出せたのは、オリジナルから日本語吹替版を作ってきた東北新社の伝統と底力があってのものだと思います。

―― では最後に、公開を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
樋口 「俺がみんなの立場だったら、こういうのが見たい!」というスタンスで、90分になるショーをみんなと楽しめるものが作れたらいいなと思って作業しました。その中で、どうしてもやりたいことがひとつだけあって、それを実現させるために奔走しましたが多分上手くいっているのではないかと。まさに、「細部に魂が宿る」というような思いで、頑張らせていただきましたので、期待してお待ちいただけると嬉しいです。