INTERVIEW
笠井信輔(サンダーバード大ファン)×
スティーブン・ラリビエー(プロデューサー/監督)
笠井 ラリビエーさんはどんなきっかけで「サンダーバード」を好きになったのですか?
ラリビエー 母が「サンダーバード」が好きで、5歳の頃にテレビシリーズを見せてもらったのがきっかけですね。その後1991年くらいにイギリスで再放送もされていたので、それを観ていた影響も大きいです。
笠井 ラリビエーさんが監督された「サンダーバード」の新作映像3本を見ました。すごく素晴らしかったです。あまりの完成度の高さに、幻の作品が発掘されたのかと思いました。ラリビエーさんは、なぜスーパーマリオネーションを現代に復活させて「サンダーバード」の新作を撮ろうと思ったのでしょうか?
ラリビエー 私が『Filmed in Supermarionation』というドキュメンタリー映画を撮った時に、ペネロープやパーカーが登場する短い映像をスーパーマリオネーションで撮影したんです。「これで、1エピソード分作れたらいいのに」とその時に思いましたね。実は、子供の頃から「イギリスではこんなに「サンダーバード」が人気があるのに、どうして新しいエピソードが作られないんだろう?」と思っていました。それから20年が経って、今回の新作映像の企画をイギリスの「サンダーバード」を放送していたテレビ局のITVから持ちかけられたので映像化を実現することができました。
笠井 スーパーマリオネーションを復活させるというアイデアは素晴らしいですが、実現に対しては苦労されましたか?
ラリビエー 僕は20年も映像制作をしているのですが、いざ「スーパーマリオネーションでやりたい」と言うと「コストがかかり過ぎる」、「技術が古すぎる」、「できるわけがない」と言われました。事実、60年代の当時も大規模な予算で制作されています。ただ、やはりやってみなければわからない。現代は映像技術も高く、新しい機材も利用することもできるので、60年代の頃と同じコストがかかるわけではありません。確かに、失われている技術もあるので、スーパーマリオネーションについては、いろいろと学ぶ必要がありました。人形を大きく見せる焦点距離の理解や、爆発シーンの見せ方などは、何年もかけて研究している方もいるので、そういった理論上の情報を組み合わせて当時の映像を再現しました。大変な労力ではありましたが、不可能では無かったです。
笠井 「サンダーバード」を復活に関して、イギリス本国での反応はいかがでしたか?
ラリビエー 復活に関しては大々的に宣伝をしてもらえたので、とても盛り上がりました。完成当初は劇場でも上映されてメディアでも頻繁に取り上げられました。劇場には自分でも足を運んでみたんですが、5〜7歳児くらい子がたくさんいて、映像を見入ってくれていたのは嬉しかったですね。未来のファンにも繋ぐことができました。
笠井 制作費はクラウドファウンディングで集めたそうですが、どうしてそのような手段となったのでしょうか?
ラリビエー 最大の理由は、撮影に入るまでに時間が無く、大手の会社にスポンサーについてもらうのが難しかったからです。もうひとつの理由は、大手企業が入ると作品について意見できる人が増えてしまい、クリエイティブの面で縛りができてしまうので、そうならないようにしたかったというのもあります。ITVはその点はとても協力的で、作品にリスペクトを持って真面目に制作してくれると判断して、口を出したりせずに私たちの自由にやらせてくれました。また、クラウドファウンディングによって、「サンダーバード」のファンというコミュニティが復活の手助けをしてくれたという構図を作ることができたのも良かったです。そして、私にとって最も良かったのは、商業的な部分を考慮せず、ファンから集まった資金を元に、自分たちだけで自由に映像制作に取りかかることができ、当時の映像制作を再現することに専念できたことですね。
笠井 これはもう、ある意味壮大な自主映画ですね。
ラリビエー そうですね。エグゼブティブに口を出されるのが好きなフィルムメーカーはいませんからね(笑)。もちろん、完全に自主映画ではなく、ITVが権利を持つ形で制作していますし、そこは尊重しています。一方でITVも我々を信頼し、任せていただき、この作品の意図も理解してくれたので、会社としてとても寛大だったと思っています。
笠井 映像の中では、小道具や美術がすごく作り込まれていて、当時の雰囲気がよくでています。撮影に昔のスタッフが参加したりしたのでしょうか?
ラリビエー オリジナルの「サンダーバード」に関わっていた人で、現場に遊びに来てくれた人は何人もいました。特殊効果ディレクターのブライアン・ジョンソンからはアドバイスをいただきながらも「いい仕事をしてるね」と励ましてくれました。その他、60年代に「サンダーバード」の監督を務めたひとりである、デビッド・エリオットは私の長年の友人なんです。この企画を伝えたところ「監督をさせえくれないか?」と言われました。84歳という高齢で、監督は決して楽な仕事ではないので少し心配でしたが、最終的にはお願いしています。今は90歳ですが、この作品をきっかけに、別の作品でも監督として関わってもらいました。また、当時パペティア(人形使い)として参加したメアリー・ターナーもデビッドが監督下エピソードで何日か撮影に参加してくれました。
笠井 2012年に日本で開催された「サンダーバード博」では、メイキング映像がほとんど残っていないということで、ほんのわずなか映像が貴重なものとして展示されました。今回、ラリビエーさんたちによる撮影時のメイキング映像を見ることができて、「こういう風に作られていたんだ」とすごく興奮しました。
ラリビエー メイキングを記録することも、今回やりたいことのひとつでした。1960年代に戻り、当時の撮影の様子を見ることができれば一番ですが、それはできません。ですから、我々がそのやり方を再現する様子を昔からのファンと未来にファンというみんなに見てもらいたいと思いました。当時とほぼ同じやり方ですべて作業し、実際にスタジオ見学に訪れた人も1000人くらいいました。新しいエピソードを3本作るというだけではなく、昔にタイムトラベルできるというのも重要な要素だったんです。
笠井 実際に撮影してみて新しく気付いたことはありますか?
ラリビエー たくさんあります。当時の映像がどうやって撮影されたのか、視聴者として見ているだけでは絶対に気付かなかったことがわかってしまいました。光りの当て方や人形の保持の仕方など。どこをどう調整して撮影したかがわかってしまい、細かいところが金合ってしまうので、オリジナルエピソードを見れなくなったのには困りましたね。
笠井 ラリビエーさんにとって、「サンダーバード」はどんな存在でしょうか?
ラリビエー 小さい頃から大好きなシリーズであり、そして、今では自分の仕事になっています。素晴らしいシリーズだと思うし、芸術性が詰まっている作品で、だからこそ長年愛されているんだと思います。数々のセットや模型、人形に人間味が詰まっています。スクリーンに映る全て誰かの手作業で作り出されたもので、すべての動きは人が意思を持って動かしている。動かない物体に命を吹き込み、ファンタジーの世界を創り出す。今後もずっと大好きなもので有り続けると思います。
笠井 日本は「サンダーバード」の根強いファンが多く、特撮映像作品やクリエイターにも大きな影響を与えています。公開を待つ日本のファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします。
ラリビエー 私は日本に住んでいたことがあり、日本に「サンダーバード」のファンが多いことは知っています。日本に居た頃に、趣味を聞かれて「柔道とサンダーバード」と答えると、「おお!」という反応があったのは嬉しかったですし、日本で出版されている本にも関わったことがあります。私たちが作った「サンダーバード」のエピソードがついに日本で公開されることになり、とてもとても嬉しいです。ぜひ楽しんでください!